公海上で自衛隊機が中国軍戦闘機にレーダー照射された。
この一報を聞いた時はさすがにぞっとした。
12月6日の午後、沖縄本島南東の公海上空で起きたこの事案は単なる偶発的なトラブルなどではない。
中国海軍の空母「遼寧」から発艦したJ15戦闘機が航空自衛隊のF15戦闘機に対して
2回にわたって断続的にレーダー照射を行ったのだ。
小泉防衛相が7日未明に臨時記者会見を開きこの事実を明らかにした。
1回目の照射は午後4時32分頃から35分頃まで、2回目は午後6時37分頃から7時8分頃まで続いた。
いずれも別の自衛隊機に対する照射で幸いにも自衛隊機や隊員に被害はなかったという。
しかし、これは結果論にすぎない。
レーダー照射が意味する深刻な事態
戦闘機のレーダー照射がどれほど危険な行為か、多くの人は知らないかもしれない。レーダーは単に相手の位置を探すだけでなく、射撃の準備段階として目標を捉える火器管制にも用いられる。
つまり、相手に照準を合わせて「いつでも撃てる」状態を作り出す行為なのだ。
今回の事案で防衛省は、一定時間断続的に照射されたことから、自衛隊機を狙った危険な行為と判断した。
小泉防衛相も会見で「航空機の安全な飛行に必要な範囲を超える危険な行為であり、極めて遺憾」と強い言葉で批判している。
考えてみてほしい。平和な日常を送っているわたしたちの頭上で、こんな緊迫した事態が起きていたのだ。公海上とはいえ、日本の領土に近い空域で、自衛隊機が中国軍機から照準を合わされていた。
一歩間違えれば、取り返しのつかない事態になっていたかもしれない。
しかも、これは今回が初めてではない。2013年1月には、中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦に火器管制レーダーを照射する事案が発生している。
あのときも日本中に衝撃が走ったが、きょう再び同じような事態が起きた。中国側の行動には明らかなパターンがある。
中国空母の動きと日本の対応
今回の事案の背景には、中国空母「遼寧」の太平洋進出がある。遼寧は5日午後、沖縄本島西の久場島付近を航行しているのが確認され、6日朝にはミサイル駆逐艦3隻とともに沖縄本島・宮古島間を抜けて太平洋に進出した。
その後、沖大東島の西約270キロ付近で艦載戦闘機や艦載ヘリの発着艦訓練を行っていたため、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進していた。
つまり、自衛隊機は正当な警戒監視活動を行っていたのだ。
それに対して中国側がレーダー照射という挑発行為に出た。これは明らかに国際的なルールを無視した危険な行動である。
日本政府は7日、外交ルートと防衛ルートを通じて中国側に抗議し、再発防止を厳重に申し入れた。当然の対応だろう。しかし、わたしは正直なところ、これだけで十分なのか疑問を感じる。
小泉防衛相は7日、来日中のオーストラリアのマールズ国防相との会談でもこの事案に言及した。マールズ国防相は「大変憂慮すべき事態だと私達も思っている」と応じ、「強い決意をもって、日本と一緒に力を合わせて行動していく」と述べた。同盟国との連携は心強い。
メディアはこの深刻さを伝えているか
ここで気になるのが、この事案の報道のされ方だ。確かに大きなニュースとして取り上げられてはいる。
しかし、その深刻さが国民にどこまで伝わっているだろうか。
レーダー照射という言葉だけでは、一般の人には何が起きたのか分かりにくい。
もっと分かりやすく言えば、「中国軍機が日本の自衛隊機に照準を合わせた」「いつでも撃てる状態にした」ということだ。
これは明らかな軍事的挑発行為である。
中国側がこのような行動に出た意図は何か。日本を威嚇し、この海域での活動を自由にしたいという意思表示なのか。それとも、自衛隊の対応能力を試しているのか。
いずれにせよ、日本の安全保障にとって看過できない事態だ。
わたしたちは、こうした事実をしっかりと知る必要がある。
平和な日常の裏側で、自衛隊員たちが命がけで日本の空を守っている。その彼らが、理不尽な危険に晒されているという現実を。
きょうから始まる新しい局面
今回の事案は、日中関係における新たな局面の始まりかもしれない。中国軍機から自衛隊機がレーダー照射を受けた事案の公表は今回が初めてだという。これまでにも同様の事案があったのか、それとも中国側が新たな段階の挑発に踏み込んだのか。
いずれにせよ、日本政府には毅然とした対応が求められる。抗議だけで終わらせず、実効的な再発防止策を中国側に求めるべきだ。
同時に、オーストラリアをはじめとする同盟国・友好国との連携を強化し、中国の一方的な行動を牽制する必要がある。
小泉防衛相が述べたように「毅然かつ冷静に地域の平和と安定に向けた対応を進めていく」ことは大切だ。しかし、毅然とした態度とは具体的に何を意味するのか。国民にも分かるような形で示してほしい。
安全保障環境が厳しさを増している。この言葉を、わたしたちはもっと真剣に受け止めなければならない。
きょう起きた事案は、遠い海の上の出来事ではない。わたしたちの安全と直結する問題なのだ。
自衛隊の皆さんが危険な任務に就いてくれているからこそ、わたしたちは平和な日常を送れている。その事実を忘れてはならない。
そして、彼らが不当な危険に晒されることがないよう、政府には強い外交力を発揮してもらいたい。
今回の中国によるレーダー照射事案。これを一過性のニュースで終わらせてはいけない。
日本の安全保障の現実を知り、考える契機としたい。
