
まさか本当にやるとは。2026年1月3日、トランプ米大統領がベネズエラへの大規模軍事攻撃を発表し、マドゥロ大統領夫妻を拘束・国外移送したというニュースに度肝を抜かれた。
「われわれがこの国を運営する」という宣言
信じられない展開だった。トランプ大統領は記者会見でこう述べた。
「安全で適切かつ慎重な政権移行が実現するまで、われわれがこの国を運営していく」と。他
国の大統領を軍事力で拘束し、その国を「運営する」と堂々と宣言する姿。これが21世紀の国際政治なのか。
米軍は現地時間3日未明、首都カラカスなどで大規模な軍事作戦を実施した。複数の爆発が発生し、軍施設が炎上。米陸軍特殊部隊がマドゥロ大統領を拘束したという。夫人のシリア・フローレスも同時に拘束され、2人は米国へ移送中とのことである。
驚くべきは、この作戦に議会の承認がなかったこと。国連安全保障理事会への事前通知もなし。国際社会は騒然となっている。
ロシアは即座に「これらの行動を正当化する口実を受け入れることはできない」と米国を強く非難した。
中国も「強く非難する」と表明。EU外相は「国際法の尊重を」と呼びかけ、コロンビアは対話を促している。
キューバに至っては「卑劣な行為」と激しく批判した。
ノーベル平和賞受賞者マチャドはどうなるのか
ここで注目したいのが、2025年のノーベル平和賞受賞者マリア・コリーナ・マチャドの存在である。
彼女はベネズエラの民主化運動を長年主導してきた野党指導者だ。2024年7月の大統領選挙では、自身が公職追放処分を受けていたため、代わりにエドムンド・ゴンサレスを擁立。選挙結果では反政府派が勝利したとされるが、マドゥロ政権は不正な結果を発表して居座り続けていた。
マチャドはトランプ政権の対ベネズエラ圧力を支持してきた。ノーベル平和賞受賞の際には、「ベネズエラ国民と、私たちの正義のために決定的な支援をしてくださるトランプ大統領に捧げる」とまで発言している。
彼女にとって、トランプの強硬策は独裁政権打倒の切り札だったのだろう。
ところが、である。トランプ大統領は記者会見でマチャドについて冷淡な見解を示した。
「彼女は国内での支持やリスペクトがない」「良い女性だが、リーダーになるのは難しい」と。暫定大統領への起用を否定したのである。
代わりにトランプ大統領が言及したのは、なんとマドゥロの側近であるデルシー・ロドリゲス副大統領だった。「彼女は最近大統領に就任した。マルコ・ルビオ国務長官と長い会話をして、『必要なことはなんでもする』と言った」と。
民主化のために命を懸けて戦ってきたノーベル平和賞受賞者より、独裁者の側近を選ぶ。
これがトランプ流の「民主主義支援」なのだろうか?
日本はどう向き合うべきか
アジア経済研究所の坂口安紀氏は、昨年12月の時点でこう分析していた。トランプ大統領の真の目的は、麻薬組織撲滅という建前の裏に、反米でキューバやイランと親密なマドゥロ政権の打倒がある、と。
トランプ大統領が2019年にフアン・グアイド暫定大統領を支援しながら政権交代を実現できなかったことが「外交上の大きな失点」だったという分析だ。今回の軍事行動は、その雪辱を果たす意味もあったのかもしれない。
しかし、上陸を伴う軍事侵攻は避けたいはずだと坂口氏は予測していた。議会承認なしの軍事介入は国内外から批判を集めるうえ、多額の出費と米兵の犠牲を伴う可能性がある。圧力をかけてマドゥロを自発的に退陣させるか、側近に裏切らせることを狙っていたのではないか、と。
結果的に、実際の軍事作戦に踏み切った。
予測は外れたが、その背景にある分析は的を射ていたように思う。
わたしが気になるのは、この前例が今後どう影響するかである。議会承認なしで他国の元首を軍事力で拘束する。
国際法違反の可能性が指摘される中での強行。ロシアのウクライナ侵攻を批判してきた米国が、同じような手法を取ったと見られかねない事態だ。
日本政府はまだ公式見解を出していないようである。同盟国としてどう対応するのか。難しい判断を迫られることになりそうだ。
ベネズエラ国民にとっては、独裁政権の終わりかもしれない。
しかし、米国が「運営する」という形での自由が、本当の民主主義につながるのだろうか。マチャドが目指してきた「独裁から民主主義への公正かつ平和的な移行」とは、違う形になってしまったのではないか。
歴史の教訓を思い出す。外部からの介入による政権交代は、往々にして混乱を招いてきた。
イラク、リビア、アフガニスタン。ベネズエラが同じ轍を踏まないことを、心から願っている。

