「政治生命をかける」と言って消費税増税を断行した人が、いま減税を訴えている。
これほどわかりやすい矛盾があるだろうか。
立憲民主党の野田佳彦代表が「消費税負担軽減対策チーム」を立ち上げたという。Xへの投稿では「責任ある減税」「あなたを守り抜く政治」と、まるで国民の味方であるかのような言葉を並べている。だが、ちょっと待ってほしいわ。
この人は誰だったのか。2012年、消費税を5%から10%へ段階的に引き上げる法案を成立させた、その人ではなかったか。
わたしは思い出す。あの時の野田氏の演説を。「不退転の決意」という言葉を使い、消費税増税こそが日本の未来のために必要だと力説していた姿を。政治生命をかけると公言し、党内の反対を押し切ってまで増税を実現させた。その結果、民主党政権は崩壊し、多くの議員が議席を失った。それほどまでに消費税増税にこだわったのだ。
13年前の「政治生命をかける」は何だったのか
2012年といえば、東日本大震災の翌年である。復興の真っ最中で、国民生活は困窮していた。それでも野田氏は消費税増税を選んだ。財政再建のため、社会保障のため、という理由だった。
わたしたちはその言葉を信じるしかなかった。首相という立場にある人の判断なのだから、きっと日本のためなのだろうと。
ところが13年経ったきょう、同じ人物の口から「消費税負担軽減」という言葉が出てくる。一体どういうことなのだろう。あの時の「不退転の決意」は嘘だったのか。それとも、いまの「負担軽減」が嘘なのか。どちらにしても、国民をバカにしているとしか思えない。
Xのコメント欄が荒れるのも当然だ。「お前が増税したんだろうが」「ギャグですか」という声は、多くの国民の率直な感想だろう。消費税10%による家計への影響は深刻である。食品も日用品も、あらゆるものに10%の税金がかかる。年間で計算すれば、何十万円という負担だ。その負担を決めた張本人が、いまになって軽減を訴える。信じられるわけがない。
選挙のための豹変 国民はもう騙されない
なぜこのタイミングで消費税負担軽減なのか。答えは明白である。衆議院選挙での議席増を狙っているからだ。野党第一党として政権を揺さぶり、場合によっては政権交代も視野に入れている。そのために必要なのが、有権者にウケる政策だ。消費税減税ほどわかりやすく、受け入れられやすい政策はない。
だが、これは政策ではなく選挙戦略だ。本気で消費税を下げる気があるなら、なぜ首相時代にやらなかったのか。権力を持っていた時には増税し、野党になったら減税を叫ぶ。あまりにも都合が良すぎる。
わたしは政治家の変節を全て否定するつもりはない。時代が変われば考え方も変わる。過去の判断が間違っていたと認め、方針を転換することだってあるだろう。しかし野田氏からは、そうした真摯な反省の言葉を聞いたことがない。
「あの時の判断は間違っていた」「国民に多大な負担をかけた」という謝罪も説明もなく、ただ「消費税負担軽減」と言われても、信用できるはずがないのだ。
投稿の最後にある「共に政治を取り戻しましょう」という言葉も空々しい。取り戻すべき政治を壊したのは誰だったのか。民主党政権時代の混乱を、わたしたちは忘れていない。
マニフェストで約束したことの多くが実現されず、逆に約束していなかった消費税増税だけが実現された。あの失望と怒りを、もう一度味わいたいとは思わない。
無党派のわたしから見ても、これは政治不信を深めるだけの行動だ。与党も野党も、国民の生活よりも選挙での勝利を優先しているように見える。本当に必要なのは、過去の政策決定についての検証と反省、そして一貫性のある政策提言なのではないか。
言葉だけの政治には、もううんざりだ。増税を決めた人が減税チームを作る。この矛盾を、どう説明するつもりなのだろう。野田氏には、まず自身の過去と向き合ってほしい。そして国民に対して誠実な説明をしてほしい。それができないなら、「消費税負担軽減」など口にする資格はない。そう、わたしは思うのである。