
国会の予算委員会での一つの質疑が、日中関係を一気に悪化させてしまった。
11月7日、立憲民主党の岡田克也元外相が高市早苗首相に台湾有事について執拗に質問を繰り返し、「存立危機事態になり得る」という答弁を引き出したのだ。
その翌日には中国の駐大阪総領事が「汚い首は斬ってやる」とSNSに投稿し、日中の非難の応酬へと発展した。
わたしは、この一連の流れを見て、強い違和感を覚えずにはいられなかった。
元外務大臣が知らないはずがない危険性
岡田氏は2009年から2010年まで外務大臣を務めた人物である。台湾問題がどれほどセンシティブで、中国がどれだけ神経を尖らせているか、誰よりも理解しているはずだ。実際、過去には尖閣諸島の国有化をめぐって「日中関係を悪化させたくない」との判断から情報公開を控えたと報じられたこともあり、日中関係への配慮を口にしてきた。
それなのに、きょうの国会質疑では何をしたのか。バシー海峡の封鎖という具体的なシナリオを示し、「これは存立危機事態になるか」と高市首相に迫った。一度ではない。
何度も角度を変えながら、台湾有事について答弁を引き出そうと執拗に質問を繰り返したのである。歴代政権が維持してきた「戦略的曖昧性」を崩すことになる、そう分かっていながら。
高市首相の答弁が不用意だったという批判もあるだろう。しかし、国会という公の場で、外交のプロである岡田氏が具体的なケースを示して質問すれば、首相は答えざるを得ない。まるで罠にはめるかのような質問の仕方だったと、わたしには見えてしまう。
「高市首相が軽率だった」と自己弁護する矛盾
さらに納得いかないのは、その後の岡田氏の態度だ。中国が激しく反発し、日中関係が悪化すると、岡田氏は自身のYouTubeチャンネルで「高市首相の答弁はあまりにも安易だった」「なぜ慎重な答弁をされなかったのか」と批判を展開した。
世論調査で台湾有事での集団的自衛権行使に賛成が48.8%に上ったことを受けて、「冷静によく考えていただきたい」と呼びかける始末である。
待ってほしい。日中関係を悪化させる火種を作ったのは、あなたの質問ではないのか。
外務大臣経験者として、台湾問題の答弁が中国を刺激することは百も承知だったはずだ。それでも執拗に質問を繰り返し、言質を取ることを優先した。その結果として中国が激怒し、日本への渡航自粛まで呼びかける事態になったのに、すべての責任を高市首相に押し付けるような物言いには強い違和感を覚える。
小泉進次郎防衛相が予算委員会で「岡田氏は具体的な事例について詳細な基準を設けて事態認定をすべきだと言っているのか」と疑問を呈したのも当然だろう。存立危機事態の認定は、その時々の状況を総合的に判断して行うものだ。
あらかじめすべてのケースについて基準を明示することなど、外交上も安全保障上も不可能なのだ。岡田氏は外交のプロとして、そんなことは十分に分かっているはずである。
野党が政府を追及するのは当然の役割だ。しかし、国益を損なうリスクを冒してまで、政権批判のための「言質取り」に走るべきではないだろう。特に外交問題については、与党も野党も日本の国益を第一に考えて行動すべきだ。岡田氏の今回の質疑は、その一線を越えてしまったのではないか。
わたしたち有権者は、野党議員の質問の仕方についても、もっと注目すべきだと感じた。質問する側にも責任がある。その責任から目を背けて、すべてを答弁した首相のせいにするのは、あまりにも無責任ではないだろうか。
日中関係の悪化による経済的な影響や、中国在住の日本人の安全への懸念を考えれば、このような質疑の在り方について、わたしたちはもっと真剣に考えるべきだと思う。

