
まさか歌っている最中に電源を切られるなんて!?!?
上海で開催中のアニメイベントで、大槻マキさんの熱唱が突然遮断された映像を見たときの衝撃は忘れられない。
照明が落ち、音楽が止まり、スタッフに促されてステージを去る彼女の姿。
これが2025年の出来事だという現実に愕然とした。
高市首相の答弁が引き金に
事の発端は11月7日の国会答弁だった。立憲民主党の岡田克也議員の質問に対し、高市早苗首相が台湾有事について踏み込んだ発言をした。戦艦を使い武力行使を伴うものであれば、存立危機事態になり得ると明言したのだ。
存立危機事態とは、日本と密接な関係にある他国への武力攻撃により日本の存立が脅かされる事態のこと。政府がこれを認定すれば、自衛隊は集団的自衛権を行使できる。歴代総理は具体例を示すことを避けてきたが、高市首相は初めて台湾有事との関連に言及した。
中国政府はこれに激しく反発。駐大阪総領事がSNSで高市首相を侮辱する投稿をする異例の事態となり、日中関係は急速に冷え込んだ。そして、その矛先は文化交流にまで及んでいる。
相次ぐイベント中止という報復
浜崎あゆみさんは公演前日の28日午前に突然中止を要請された。日本と中国のスタッフ総勢200人が5日間かけて組み上げたステージを、本番直前に解体せざるを得なかった。
1万4000人のファンが集まっていたにもかかわらず、だ。彼女は「自分の知識が無い部分へ口出しするつもりはありません」としながらも、「今はまだ信じられず、言葉になりません」と無念の思いを綴った。
ももいろクローバーZやJO1、ゆず、斉藤朱夏、ジャズピアニストの上原ひろみさん、さらには美少女戦士セーラームーンのミュージカルまで。日本人アーティストのイベントが次々と「不可抗力」「やむを得ない諸事情」という理由で中止に追い込まれている。具体的な理由は一切明かされない。まるで見せしめのように、文化交流が断ち切られていく。
わたしたちが忘れてはならないのは、これらのイベントを楽しみにしていた中国の若者たちの存在だ。SNS上では中国のファンから「純粋なファンやアーティストが可哀想」「チケット売って客入れておいて、当局の一声で強制終了とはリスクが大きすぎる」といった声が上がっている。
政治と文化は別物だと考える人々が、両国に確かに存在するのだ。
文化を人質にする外交姿勢
中国政府のやり方は、あまりにも稚拙で威圧的だ。政治的な不満を文化交流にぶつけ、民間のアーティストやファンを巻き込む。これは外交の道具として文化を人質に取る行為にほかならない。
高市首相の答弁には賛否両論あるだろう。外交上の「戦略的曖昧さ」を失ったという批判もある。しかし、台湾有事が日本の安全保障に直結する可能性について、民主主義国家の首相が国会で答弁することは当然の範囲内だ。
それに対して、民間の文化活動を標的にして報復するという手法は、成熟した国家の振る舞いとは到底言えない。
かつて韓国でも「限韓令」と呼ばれる韓流規制があった。きょう、中国では「限日令」という造語がSNSで飛び交っている。政府の気に入らない発言があれば、いつでも文化という電源を落とせる――そんな恫喝に屈してはいけない。
音楽やアニメといったポップカルチャーは、政治とは別に人々の心をつなぐ貴重な架け橋だった。その橋が今、政治の道具として踏みにじられている。わたしたちは、この理不尽な状況に対して声を上げ続けなければならない。
そして日本政府には、文化交流を守るための毅然とした外交努力を求めたい。
ステージの照明を落とされた大槻マキさんの姿が、今のわたしたちに問いかけている。
自由に歌うこと、自由に表現すること、自由に交流すること――その尊さを、わたしたちは改めて噛みしめるべきだろう。

