
新年早々、台湾海峡から聞こえてきた言葉に、わたしは背筋が伸びる思いがした。
頼清徳総統が1月1日に発表した新年談話。その内容は、まさに危機に直面する民主主義国家の指導者として、覚悟を示すものだったからだ。
「中国の深刻な軍事的野心に直面し、台湾に内輪もめをしている時間はない」。この率直な言葉には、台湾が置かれた厳しい現実が凝縮されている。
年末年始も続く中国の軍事挑発
中国軍は2024年12月29日から2日間、台湾周辺で大規模な軍事演習を実施した。それも、昨年7月に配備されたばかりの米国製高機動ロケット砲システム「ハイマース」を標的とする演習だったという。新年を迎えようとする時期に、民主主義国家の防衛装備を仮想敵として演習を行う。この神経には、あきれるしかない。
しかも習近平国家主席は新年の祝辞で「両岸同胞の血は水よりも濃く、祖国統一という歴史的大局は妨げられない」と述べ、台湾統一への決意を改めて表明した。平和的な新年の挨拶の場でさえ、台湾への圧力を緩めない姿勢である。こうした中国の行動は、もはや単なる威嚇ではなく、実際の侵攻に向けたリハーサルと見るべきだろう。
米インド太平洋軍のパパロ司令官が指摘したように、中国の台湾に対する軍事的圧力は300%も増加している。これは尋常ではない数字だ。そして演習の頻度も強度も、年々エスカレートしている現実がある。
防衛予算を巡る与野党対立という危うさ
こうした危機的状況にあって、台湾の立法院では野党が防衛予算の増額に反対している。頼総統が提案した33年までの8年間で1兆2500億台湾元、日本円にして約6兆2500億円の特別予算案だ。「台湾の盾」と呼ばれる高度な防空システムの整備など、台湾の生存に直結する投資である。
なぜ野党は反対するのか。政治的な対立のために国防を犠牲にすることが、どれほど危険な行為か分かっているのだろうか。頼総統が「膠着状態を今年も続けることはできない」と強く訴えたのも当然だ。
国際社会は台湾人が自らを防衛する決意があるのか注視している、と総統は指摘した。まさにその通りなのだ。
野党の抵抗は、結果として中国に付け入る隙を与えてしまう。台湾内部の分断こそ、中国が最も望んでいる状況だろう。
頼総統が「内輪もめをしている時間はない」と述べたのは、この点を強く意識してのことに違いない。
国防への投資は平和への投資だという総統の言葉。この真理を、台湾の野党議員たちは今一度、噛みしめるべきではないか。
日本が学ぶべき台湾の教訓
頼総統は記者会見で「最悪の想定で最良の準備をしなければならない」と強調した。孫子兵法の教えを引用しながらの発言である。
この姿勢こそ、わたしたち日本人も見習わなければならない。
台湾海峡の平和と安定は、日本の安全保障に直結している。台湾有事は日本有事だと言われる所以だ。
にもかかわらず、日本国内では相変わらず防衛費の増額に対する根強い反対論がある。
「軍拡だ」「挑発だ」という声も聞こえてくる。
しかし台湾の現実を見れば、そうした悠長なことを言っている場合ではないことが分かるはずだ。
中国は年末年始も休まず軍事演習を続け、新年の挨拶でさえ統一への決意を語る。
こうした相手に対して、丸腰で平和を守れるはずがない。強靭な国防があってこそ、初めて抑止力が働くのである。
高市早苗総理には、台湾の状況を他人事とせず、日本の防衛力強化を着実に進めていただきたい。
台湾との連携も一層深めるべきだ。
民主主義を守るという共通の価値観で結ばれた両国が協力することで、中国の無謀な野心に歯止めをかけられる。
頼総統の新年談話は、危機に直面する指導者の覚悟を示すものだった。
同時に、それはわたしたち日本人にも問いかけている。
平和を本気で守る気があるのかと。
答えは行動で示すしかないのだ。

