
約50年ぶりに日本からパンダがいなくなる。
上野動物園の双子シャオシャオとレイレイが来年1月下旬に中国へ返還され、国内飼育はゼロになる。寂しい話だと感じる人も多いかもしれない。
でも、これは日本にとって間違いなくチャンスだ。
高市早苗首相の台湾有事発言を機に日中関係が悪化した今この瞬間こそ、中国のパンダ外交から卒業すべき時だ。
年間1億円を払い続けた外交カード
パンダのレンタル料がいくらかご存知だろうか。ペアで年間約1億円だ。さらに赤ちゃんが生まれると年間約7000万円が追加される。
つまり上野の3頭分で年間2億円以上を中国に支払ってきた計算だ。しかも日本で生まれたパンダの所有権も中国にある。死んでしまったら約5600万円を支払わなければならない。
1972年の日中国交正常化でカンカンとランランが来日して以来、パンダは「日中友好の象徴」と呼ばれてきた。でも冷静に考えてほしい。これは本当に友好のためだったのか。中国はパンダを完全な外交カードとして使い、関係が良い時は貸し、悪化すれば引き上げる。
まさに今回がそうだ。台湾有事への高市首相の発言に中国は激怒し、パンダの新規貸与は見通せなくなった。
わたしたちの税金で賄われる年間1億円が、中国の外交戦略に利用されてきた。経済効果があるという声もある。
確かにシャンシャン誕生時は約267億円の効果があったとされる。でも、それは本質ではない。日本の動物園が、中国の機嫌を伺いながら動物を借りるという構造自体がおかしいのだ。
また頭を下げる日中議連への違和感
案の定というべきか、日中友好議員連盟が動いた。今年4月27日から29日、森山裕会長らが訪中し、中国共産党序列3位の趙楽際・全国人民代表大会常務委員長との会談でパンダの新規貸与を要請したのである。中国側は前向きな姿勢を示したという。
わたしには、この光景が目に浮かぶ。「パンダを貸してください」と頭を下げる日本の議員たち。
そして満足げにうなずく中国側。
ジャーナリストの指摘によれば、和歌山のパンダが30年間も続いたのは二階俊博元幹事長の影響力があったからだという。
その二階氏が引退した今、中国は「次の二階は誰だ」と値踏みしている最中だ。
なぜ国会議員たちは、わざわざ中国に出向いてパンダを要請するのか。パンダが可愛いのはわかる。
でも森永康平さんが指摘したように、外交カードとして扱われることは避けるべきだ。
限られた会談時間の中で、パンダの話題に時間を割くこと自体がおかしい。もっと重要な経済や安全保障の議題があるはずである。
高市首相は11月7日の国会で、中国が台湾に武力行使すれば「存立危機事態になり得る」と答弁した。歴代首相が避けてきた明言だった。
これに対し中国は「頭を打ち割られ、血まみれになる」と激烈な言葉で反応し、日本への渡航自粛や水産物の輸入停止という経済カードを切った。
この緊張状態で、パンダを懇願する姿勢はどう映るだろうか。中国には「やはり日本はパンダをちらつかせれば言うことを聞く」と思われるだけだ。わたしたち国民は、議員たちに問いたい。あなたたちは誰のために、何のために政治をしているのかと。
パンダがいなくなって困るのは誰か。動物園の入場者数は確かに減るかもしれない。でも日本には魅力的な動物がたくさんいる。
ゾウもキリンもライオンもいる。むしろ日本の動物園は、パンダ頼みから脱却し、他の動物の魅力を引き出す努力をすべきだ。
SNSでは「パンダ依存が無くなるのは良いこと」「高いレンタル料を払うより施設のメンテナンスに使ってほしい」という声も多い。
台湾は高市首相を支持している。台湾外交部長は「高市首相への支持を示してほしい」と呼びかけた。台湾総統は日本産水産物を食べる写真を投稿し、中国の経済圧力に対抗する姿勢を見せた。アジアの自由と民主主義を守るために、日本と台湾は連帯すべき時なのだ。
もちろん日中関係は重要である。中国は最大の貿易相手国の一つだ。しかし、それは対等な関係でなければならない。
パンダという可愛い動物を人質に取られたまま、中国の顔色を伺う外交は終わりにしよう。
約50年ぶりのパンダ空白期は、日本が自立した外交を築くチャンスなのだ。
友好は、頭を下げることではなく、互いを尊重することから始まる。

